「…来るな…」
アルベールが強盗の動きを察して呟く。魔法の効力が途切れたのか、扉の向こうは一瞬静まり、直後に強盗たちの怒号が響いた。大仰に弾を装填する音も聞こえてくる。鍵の壊れた木の扉では蜂の巣にされてたちまち終わりだ。
「アル…ちょっとどいて。」
カーサは鍵を握るようにして何とか止めようとしているアルベールの手をどかし、そしてそれに自らの手を触れた。
お願い…鍵よ、元通りになって…!!
カーサはぎゅっと目を瞑り、必死の思いを鍵に託した。
扉よ…銃弾を弾く力を…
段々と近づいてくる強盗たちの足音が耳に入る。汚らしい言葉を吐きながら、挑発的にしきりに銃を鳴らす。
「死ね!ガキども!!」
「カーサ!!」
扉の向こうで今まさに発砲されるのを感じ取ってアルベールが咄嗟にカーサを抱え込むように庇う。もし…もしも私がちゃんと魔法を与えられていなかったら…!!
「アル…!!」
カーサは体を強張らせてアルベールの袖を握り締めた。しかし弾丸は飛び込んではこない。聞きなれないガキンッだかボコッだかの音が繰り返し響くだけ。
「何だ?!くそ…開けろ!!」
続いてガチャガチャと荒々しく取っ手を回す音が聞こえてくる。アルベールは抱え込んだ腕を緩めて肩越しに振り向いて状況を探った。カーサも高鳴る鼓動を抑えるように胸に手を当て、扉を見遣った。扉は弾丸を打ち込まれようとも、壊れんばかりに取っ手を扱われようとも、びくともせずに二人と強盗を隔てていた。
「カーサ、今のうちだ!」
アルベールは抱きかかえるようにしていたカーサを、自分が立ち上がらせるのに伴わせ、貨物車両の脇扉から出るように促した。カーサはまだ鼓動が落ち着かないながらもそれに従った。今ここで足止めできていても、魔法が与えられているのは車両間の扉だけ。外から回られてはたちまち袋小路になってしまう。魔法の扉は強盗たちの手荒な扱いに大きな音を響かせる。いくらやろうとも魔法を破られはしないだろう…だが別のルートから攻める事に気付かれたら終わりだ。
「…さぁ、早く。」
アルベールはそっと脇扉を開けて素早く外の安全を確認すると、カーサから先に外に出るようにと頷くように言った。この貨物車両を出て気付かれないように前方の旅客車両か先頭車両に乗り込む…カーサさえ安全な場所にかくまえれば、とりあえずはそれでいい。
カーサは何も言わないまま全てを承知したように頷くと、少し車高の高い貨物車両の脇扉からぴょんと軽く飛び降りた。アルベールは今一度やかましいほどの音を立てる扉を見遣ると、同じように車両から外へ出た。