「エ、エディ…?」
カイは見つけた、やっとのことで。岩の下に腕が見える。カイは息を切らしながら周囲の岩を消した。
「大丈夫か?!」
カイはエディの体に手を伸ばした。指がエディに触れる直前で、クリフォスの光はふっと一時的に消えた。カイは横たわるエディの肩に右手を置き、軽く揺さぶった。
「エディ、無事か?…エディ?」
「……そんな…」
カイは気付いてよろめいた。頭が鈍器で殴られたかのようにぐらつく。エディは再び目を開けることはなかった。落石の粉塵と火傷により汚れた沈黙の身体は、もはやただの器でしかなかった。カイはうなだれた。それと同時に大粒の涙がボタボタと一度に何粒もこぼれた。
嘘だろう…?本当に、ほんの少し前まで私の横で笑っていたのに…。カイの全身を覆うクリフォスの光が弱まる。周囲が暗くなっていくように、カイの心も闇に覆われていく。体に力が入らない、頭に何も浮かばない。いっそこのままここで…他の世界に行くなんてやめてしまおうか…
(そうやってまたカイまで埋まるつもり?ダメだよ、そんなの。)
エディの声が聞こえたような気がした。カイはぎゅっと目を瞑り、そして涙に濡れる目を静かに開けた。そうだ、私はまだやめるわけにはいかない。助けなければ、ウィゴや沢山の人を。そして見出さなければ、世界の姿を。
「だけど君を置いてはいけないよ…。」
カイは背中にエディを背負い、ウィゴの元へ戻った。
「行こう、ウィゴ。私の肩に掴まって。」
「エディの奴は無事なのか?」
「…いや、でも一緒にここを出たい。」
「…そうか。」
ウィゴはカイの左手を取って立ち上がった。カイは足を骨折したらしいウィゴを、うまく自分の体が支えになるようにバランスを保つと、まっすぐ前を見た。
「どう出る?道は完全に塞がってるぞ。」
「いや…」
カイの目に静かな火が宿る。
「それでも前へ。」
今この状態では右手はおろか左手すら手放せない。だが力があるなら…それが私の力なら…道を切り拓け、クリフォスの力よ!
再びカイの体を赤い光が覆う。だが体を接するウィゴやエディにはその影響が及ばなかった。クリフォスの光は右腕から発し、カイの周りを少し流動するように漂うと、堰を切ったように出口への道を塞ぐ岩へと向かった。光に触れて岩はどんどんと消えていく。道々に閉じ込められていた人たちも、岩が消えたことに驚きはしたものの、それが生命線であると見て次々と出口へ向かい始めた。
「カイ…お前は一体…」
「…行こう。」
カイはどこに目をやるでもなく、ただ外へと続く道を見つめていた。
カイは自分がほとんど疲れていないことを半ば不思議に感じていた。それも男を2人その体で支えているにも拘らず、である。所々落下する岩礫は3人の元には決して届かず、絶えず流動する赤いクリフォスの光は、まるで3人を守っているかのようだった。カイは進む道なりの、耐え難い光景は見ないようにと努めた。何度も振り返っては最後を行く無事は人間が自分たちであることを確認しつつ、極力目を逸らしていた。
ウィゴはその間何も言わない、エディは…もはや何も言えない。ただ足元の引き摺るような音だけが響く、静かな暗闇だった。
「カイ見ろ…出口だ…!!」
ウィゴの励ますような声が沈黙を破る。遠く小さな点ほどに光が見え始めた。ここを出れば見なければならないものも…受け入れなければならないことがあるのも…知っている。けれど…エディ、この暗闇を抜けて君を光の下に連れ出したら、また笑ってくれるんじゃないかって…そう思う私は浅はかだろうか。
光は私から最も遠い存在…だから私にできない奇跡の一つくらい起こせそうな気がするんだ。その希望を持っていられるなら、この暗闇を出なくたっていい…。
「大丈夫か?!」
目の前の光から声が聞こえる。もう出口は近い。カイはやや複雑な心持でありながらも出口へと歩みを進めた。背負い直したエディの体の重たさに悲壮感が心を満たしていく。光を見ることを望まないときもあるものだ。光は嫌でも真実を明らかにする、闇は静かに全てを隠す。自らの闇もそうだとは決して言わないけれど…。