「どこまでなら…か。経済府次第だか、暴動かクーデターくらいならいつでもやるさ。」

オックスは事も無げに言う。窪地の男達も同意している。

「何が不満なんだ?この炭鉱の環境はそれほど悪くないはずだぞ。」

「そりゃ悪くないさ。全国民がみんな同じように働いているならな。分からないか?俺たちは言わば奴隷か捨て駒だ。俺たちが苦労して採掘した石炭は一欠けだって手元に残らない。石炭を使ってその辺の奴等は便利な生活ができる、他の国に売りゃあ豊かな生活ができる。不公平じゃないか!俺たちはただ働くだけだ!何にもならない!!」

オックスに同意する声が窪地に響く。

「それなら武力に頼るな!経済府に申し立てでも何でも頼めばいい!確かに君達の言うとおりだ。きっと人々は鉱山がどんな環境かを知らない。だが知らないだけだ!理解があれば物事は変わる!鉱山は他の国民にとっても動員されてきた人達にとっても、もはや必要不可欠なものだ。ここには多くの人の思いがある!勝手に踏みにじるな!」

カイは怒鳴った。同室の彼らの思いを知っていたからだ。

「大多数のために俺たちが我慢しろってのか?!それじゃあ俺たちの思いはどうなる?!勝手に踏みにじってるのはそっちじゃないか!」

ロアルトと呼ばれた男が声を張り上げた。気持ちは分かる。誰だって自分の意見を通したい。だからといって「俺はどうなる」「私はどうなる」では埒があかない。互いに譲り合わなければ。たとえそれが決して譲れないものだとしても、それで争いを起こして何になる?

「話にならないな。」

オックスが溜め息混じりに呟いた。

「その右腕を見て、もしやとは思ったんだが…。」

「これは痣だ。あんたらがどう思おうが勝手だが、私の意志じゃない。」

「…まぁいいさ。それが痣だろうが何だろうが、あんたが俺たちに賛同しないんなら同じことだ。もう行っていいぜ。悪かったな、ここまで連れ出して。ただ一つ、このことは…」

「分かってる。決して他言しない。」

カイはそれだけ言うと踵を返し、宿舎へ戻っていった。

 

 

 「おかえり、カイ!そしてただいま〜!」

部屋に帰るとエディがいた。

「随分早いな、エディ。まだ昼前なのに、兄さんたちにはちゃんと会えたのか?」

「もちろん!うちってここからあんまり遠くないんだよね。それに忙しそうだったから追い出されちゃった。」

エディは‘あはは’と笑いを付け加えた。

「5人兄弟の真ん中って損だよ〜。威張れないし、かといって甘えらんないしさ。ところでカイはどこ行ってたの?」

「ん?ちょっとね。」

カイは言葉を濁した。だが相手はエディだ。彼はこの場合…

「あ、あれでしょ?この前食堂で話してきた人!結局なんのグループだったの?」

やはりストレートに聞いてきた。

「特に私には関係のないものだったよ。」

カイは少し困ったような笑みを浮かべた。その裏で予想通りのエディの言葉に、内心笑いを堪えていたのだが。

「ふぅん…。」

エディはカイのベッドの上の本を、読むでもなくパラパラとめくりながら空返事をした。

「つまらなかった?」

「ちょっとね、なんて。聞いた話だけど、第4炭坑の人達って危ない人が多いらしいよ。危ないって…その、過激ってことだけど、別名隔離炭坑だとか。」

「誰に聞いた?」

「え?誰だったっけ…。確か食堂のおばちゃんだったかなぁ?色々教えてもらったんだ。あ、でも第4炭坑の話が本当かどうかは知らないけど。」

「そうか…。」

過激…確かに彼らは過激だ。いつ暴動を起こすとも限らない。だが、彼らは本当にこの世界の姿なのか?右腕は何の反応も示さなかった。反応がなければクリファの意味は見えてこない。まだその時ではないのだろうか。だとしても暴動が起きてからでは遅い。何とかその前に食い止めたい。誰の何を犠牲にしても。

 

 

        

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