はるか上空から砂漠を見下ろすのにも随分慣れた。ニロでちまちまと砂漠を進んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えるくらい爽快だ。あいつは…あの女は砂漠の南東方面に進んでいる。光姫の気配が強くなるのとは裏腹に、ハイゼの意識はどんどんと侵食されていった。
小さなオアシス跡が見えてくる。そこはさっきまで自分がいた場所、あれは俺のものだ…俺が満足したら消してしまえばいい。他の奴らには使わせない。独占欲を満たした時ほど愉快なことはない。あの女ももうすぐ俺のものだ。俺の知らないところで生かしはしない。
「ハイゼ…」
光姫が竜を見て呟いた。それと同時にカルラの警戒を呼びかける指笛も聞こえてくる。その音が少しだけハイゼの意識を呼び戻す。だけど何かに遮られているかのように、目の前が見えない。本当の自分の目で周りを見ることが出来ない。ミツキ…ミツキ、どこにいる?逃げろ…逃げるんだ!俺から離れろ!…もう遅い!!!!!!!!
あの女とはもう目と鼻の先だ。捕らえられないわけがない。ニロなんかで俺から逃げられるものか。殺してやる…殺してやる…待っていろ!この独占欲を満たしたら、永遠にお前を俺の側に置いてやる。
「止めるんだ!御頭!!」
不意に懐かしい声が聞こえ、同時に即頭部に衝撃を感じた。だが痛むはずもない。邪魔をするな…!お前も、俺の中のお前もだ!
竜は大きく翼を広げた。愚かなニロのように地を這う必要などもうない。一瞬でけりをつけてやる。そうすればもう邪魔は出来まい。俺のものだ…俺のものだ!もう元の世界を恋しがることも、寂しがることもなくなるんだ!今すぐこの牙で…
大丈夫ダ…
永遠にお前を…
死ナセハシナイ…
抱いてやる…!!
ミツキ…!!!
「ハイゼーーーーーーーーー!!!!」
その言葉が本来の鼓動を呼び覚ます。どす黒い感情を強制的に追い出していく。やっと目の前が見え始めた…ミツキ…泣いていたのか…?