衝動に駆られるんだ…
会いたい気持ちに伴ってはいけない感情が纏わり付く。
茶色い髪、華奢な体、唇の温度…。強く抱きしめたら壊れてしまいそうな…だけどそうしていないと崩れてしまいそうな、そういう奴なんだ。泣いてる…だろうな。本当は近くにいてやりたい。あいつの側まで行って…爪で引き裂いて、噛み付いて、殺してしまいたい…殺してしまいたい!いっそのこと!!!!
…違う!!俺はそんなことがしたいんじゃない!ただ願いを叶えてやりたいんだ…あいつが元の世界を望むなら…帰してやりたい。ただそれだけなんだ。
なのに、あいつのことを考えて心に隙が生じると、途端にどす黒い感情が流れ込んでくる。いっそ噛み殺してしまえと俺を唆す。簡単なことだ…今まで抱きしめてきたように、その牙であの女を抱いてやれ、と。
やめろ…やめろ!!!そんな言葉を俺に聞かせるな!
本当はあの女を手放したくはないのだろう?
だったら何だ?!
あの女が自分の知らないところで生きていると思うより、死なせて自分のものにしてしまえばいい
てめぇ…何のつもりだ!?
俺はお前の望みを叶えてやるんだ
ミツキに手を出してみろ…承知しねぇぞ!!
俺が手を出すわけじゃない、やるのはどの道お前だ
…てめぇは誰だ?!何故俺にそんなことをやらせようとする?!
まだ分からないのか?
…俺はお前だ
竜のおかげでやっと出てこれた
お前の欲望さ
「ミツキ…!」
絶望を振り払おうと、ハイゼは少女の名を口にした。けれど、それはもはや言葉ではなかった。辺りに竜の咆哮が轟く。手当たり次第に全てのものを破壊していく。自分の体に薄気味悪く纏わり付くドロドロとしたような感情を振り払って、元の自分に戻りたい…心だけでも。
そうしてどれだけの時間が過ぎたのだろう…。体の痛みで目が覚める時は、いつでもどこかの岩山の上で、体から嫌なに匂いがしていた。血と砂埃と何かの焼けた匂い…最初は何故そんな匂いがするのか分からなかったが、今では自分がしてしまったことがよく分かる。自分が一体どれだけのものを失わせてしまっただろう…。ミツキやあいつらがそれを見てどう思うだろう…。後悔するのを知っていても、どうしても無差別な破壊をやめられない。そうでないと、自分がいつミツキを襲ってしまうかも分からない。俺の命ならいくらでもやるよ…だから大人しくしていてくれないか…?
けれど答えは返らない。返らない答えはNO。いっそあいつを忘れている方がいいのだろうか?だけど俺が叶えてやりたいのはあいつの願いだ。ミツキを忘れてはいけない…忘れたくない。
忘れたくないなら会いに行けばいい
欲望が耳元で囁く。薄笑いする表情をしていることも分かる。だけど…時に甘く囁きかけるその言葉に、俺はつい従ってしまったんだ。