―悲しい寂しい気持ちが心を満たしていく…。どうして?ああ…これはまた夢だ…。−
ハイゼの話の後、その夜でさえ再び夢を見ていた。あの物悲しげな辛い夢を。
―どうして…どうしてこんなに悲しいの?眠いのに…寝ているのに思考回路だけが活発だ。思い出したい…何の夢だったのか。−
光姫は寝返りをうった。途絶えていく夢路を必死に引き寄せる。
―…苦しい、でも辿りつきたいの…あの夢に。−
ハイゼはそんな光姫の異変にいち早く気が付き目を開けた。光姫は今ハイゼに背を向けて寝ている。表情を見ることは出来ない。だが微かにうなされるような声が聞こえた。
―もう少し…もう少しで手が届く、思い出せる。−
その瞬間、あたしは光の中に飛び込むかのようだった。夢の中で目を瞑ってもう一度目を開いた時、あたしは知ったんだ。あの悲しい夢は元の世界を見ていたんだということを。最初に浮かんだのは高校、教室、それから通学の電車、家まで至る道。下校に見慣れた道順をいつもと同じように過ごしてる。それからよく見知った人たちの顔が次々と目の前に浮かぶ。あたしにとっては簡単にいえば世界が変わっただけ。でもあたしを知る人たちはあたしがいなくなってどんな風に思っているんだろう。…帰りたい。平凡で代わり映えのない毎日でも、そこがあたしの故郷だから。思い出せる限りのかけがえのないものがどんどん心に蓄積されていく。
ツライ?
夢の中で声がこだまする。これはあたしの心の声…なのかな?
―辛くない。ハイゼたちがそばにいてくれるから。−
あたしは声に答えた。
楽シイ?
また声は問う。
―…時々楽しい、時々…寂しい。−
帰レルノ?
―分からないけど、今一生懸命探してるわ。ハイゼたちが一緒ならきっと帰れるような気がする。−
…帰レルノ?
―…?どういう意味?−
そこで夢は途切れた。真っ暗になった意識の中であたしには悲壮感だけが残された。ルベンズに“帰ってきた”ということ、そのことから元の世界の夢を見るようになったこと、心の中は切ない気持ちでいっぱいになった。不安…そう、そんな気持ちにも似ている。だけど何に対して?帰る方法が見つからないということではない。夢の中で繰り返されたあの問いが頭から離れない。今この状態が“ツライ”。
光姫は再び寝返りをうった。もしオクルの来訪の意味を今夜に求めるのなら、それはハイゼに光姫の涙を見せるためだったのかもしれない。寝返りの瞬間、光姫の瞳からポロポロと涙が零れた。とても悲しそうな表情、寂しげ涙。ハイゼは見てしまった。そして気付いてしまった、その涙の真意に。