『大丈夫か?』

 

 

…これはハイゼが最初にあたしに掛けてくれた言葉だ…。不思議だな…なんで今頃思い出すんだろう?

 

 

『疲れたか?』

…だいぶ、ね。ごめん…今は嘘がつけないの。本当は“全然”って言いたいけど…。

 

『変わってるな、お前は。無欲というか何と言うか…』

…そんなことない。心の中は欲でいっぱいだよ。何もかも全てが幸せな結果になればいいのにって思ってる。

 

『…もういいよ。そんなに気にするな。』

…良くない!こんな気持ちでいたら、あたし本当の言葉を呼びかけてあげられない…!

 

『ミツキ…今は時間がない。』

…分かってる。

 

『頼むから素直に来てくれ。』

…行けないよ!

 

『お前は自分の心配をしてりゃあいいの!』

…無理だよ…。だってあたしが動いたら必ず悲劇が待ってる。あたしはあたしだけの問題、だけど御頭のいなくなるルベンズはどうなるの?!それに…それにあたし、ハイゼの心配をせずにはいられない…!嫌だ…嫌なの!!何も失いたくないよ…!

 

『大丈夫だ、ミツキ。落ち着け。』

…ごめん…でも怖いの…。自分が死ぬかもしれないことも、その後どうなるか分からないことも…。唯一確実なのが悲劇の予兆じゃ、あたしは一歩を踏み出せない。ねぇ、ハイゼ。ワガママだって言われてもいいよ。あたしこのままでいちゃダメかなぁ?

 

 

『心配すんな。』

 

 

 

 

『お前は俺が帰してやるからな…。』

 

 

 

 

 

 あたしはハッとして目を覚ました。夜も更けた月明かりの室内。体育座りの膝に突っ伏したまま寝ていた…のだろうか?よく分からない。一瞬誰かが抱きしめてくれたような気がしていた。鮮明に蘇ったハイゼの声…、まるであたしの記憶しているハイゼの言葉を誰かが操って会話が成立していたみたい。

たとえ偶然や幻だったとしても、今のあたしにこれほど力を与えるものは他にない。今までの会話一つ一つにもちゃんと意味はあったんだね…。ハイゼ、この思いがけない会話がどれだけあたしを後押ししてくれたか分かる?

 

 忘れてた…、あたしはハイゼに報いてあげたいんだ。報いるっているのは自分にとってのいいことだとは限らない。自分が許せなくても…後悔しても…それでもいい。ハイゼがあたしを帰すためにしてくれたことに、ちゃんと応えることが求められてるんだ。他の誰からでもない、あたし自身からあたしに対して。

 

でも…可能性くらいは信じてもいいよね…。もしかしたら誰も死なずに済むかもしれない。何もかも良くなる方法があるかもしれない。今はまだ打開策が分からないのだとしても、可能性を信じられなくなったらあたしは終わりだ。自分の周りの崖が崩れそうなら 、そうならないように気をつけるだけの話。諦めるにはまだ早い。

ハイゼ…この世界では全てに意味があるから、あなたが今まであたしにしてくれたことは今こうして力を発揮しているよ。必ず…必ずあたしもそれに応えるから…!

 

 

     

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