カイは塔の中を迷うことなく駆け抜けていた。外部の侵入を阻む為の複雑な造りも、今のカイにとっては何の障害にならない。途中何人かの軍部関係者とすれ違ったが、誰もカイを呼び止めることさえできなかった。それはカイがかなりの速さで走っていたということもあるが、軍部関係者が丸腰の侵入者にかまっている暇がなかったからか、それともカイの力を知っていたからか、とにかくカイにとっては好都合この上なかった。しかし階段を3階まで上がり、次の階段を探すのに廊下を駆け抜けている時に、初めてカイを呼び止める者がいた。

 

「お、おい!カイ!」

カイは立ち止まり振り返った。

「アルマ…」

「何でここにいるんだ?独房は…なんで…?!」

「アルマ、攻撃中止命令を出してくれ!私は戦争を…うっ」

カイが立ち止まったのを見て、後ろから追ってきていた兵士がカイを羽交い絞めにした。力強くまた素早く後ろ手に取られ、頭を押さえつけられてカイは思わず呻いた。

「おい!やめろ!そいつを放せ!!」

「しかし参謀…」

「つべこべ言わずに放すんだ。下がれ。」

兵士は不審な顔をしていたが、アルマの命令に従ってカイを放し、その場を離れた。独房からここまで走ってくるのに疲れを感じていなかったのに、一度立ち止まると途端に息切れがした。

「どうやって独房を出た?他に協力者がいたのか?」

「いや…自力で出た。」

カイは喘ぎながら言った。

「総督は…この上にいるのか…?」

「へ?あ、ああ。この上だ。だけど今は近づかない方がいい。出兵準備でかなり気が立ってるからな。」

「命令は全て総督が出すんだろう?」

カイはアルマの話を半ば無視して聞いた。

「もちろんそうだ。」

「そうか…」

カイはふらつきながらも俄かに走り出した。しかしその右腕をアルマが掴み、再び彼を立ち止まらせる。

「まさか総督のところに行こうってのか?死ぬぞ。」

「たぶん…大丈夫だ。」

カイはアルマの手を払い再度走り出した。アルマは今度は止めることが出来ず、カイを追って4階に続く階段を二段飛ばしで駆け上がっていった。

 

 

 4階はそのフロア全てが司令室になっていた。階段を上りきるとそこに廊下はなく、突如としていかにも頑丈そうな扉が現れた。

「アルマ、私と一緒だと誤解を受けるぞ。」

「分かってるよ。だからお前を行かせはしねぇ。本当に殺されるぞ。」

「…3階に戻ってくれ、アルマ。私は勝手にここまで来たんだ。あんたを巻き込みたくない。」

「本当に勝手だよ、お前は。」

アルマは肩をすくめ、それと同時に小さくため息をついた。

「俺は3階には戻らねぇ。だが司令室にも入らねぇ。扉の前で様子を伺ってる。分かったらさっさと行きな。」

アルマは腕組みをしてすぐ横の壁に寄りかかった。カイはその様子に小さく微笑みかけると、扉を軽くノックした。返事はなかったが、カイは構わず司令室に入っていった。

 

 

        

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