「リトリアはエウターナを迫害してるんじゃないのか?」
「してるさ。今のはただの個人的な意見だ。ガキの頃にエウターナに住んでたことがあるんだ。親父が鋼夫だったからな。ずいぶん世話になったよ。」
「それなのによく迫害できるな。世話になったくせに。」
「俺だってやりたくてやってんじゃねぇし、兵士の一人一人がエウターナ民族の誰を収容所に入れるとか、誰をその場に殺すとか、そういうことまで手が回んねぇんだよ。だけど収容所に入れば俺の管轄下だ。これでも鉱山で働かせるだのなんだのごまかして処刑させないようにはしてるがな。」
「…それでもエウターナ人はあんたを憎むよ。」
「分かってるよ。でもいいんだ。俺の自己満足だとしてもさ。」
アルマはタバコの火を背後の壁に押し付けて消すと、それを小さなケースにしまいポケットに戻した。
「迫害を終わらせようとは思わないのか?」
カイはアルマに対して敵対的な感情は少しも持たなかったが(むしろ少しばかり友好的な見方をしていたくらいだった)、それでも彼の言葉や考えに府に落ちない点があった。
「思ってるさ。だがそのためには戦争を起こさにゃならん。」
アルマはごく当たり前と言うような口調だった。カイは振り向き、アルマを見据えた。
「戦争?何故だ?」
「もう何年も前から総督は血と征服欲に憑りつかれてる。戦争で負けるかしない限り収まりそうもないからね。」
「馬鹿な…。それでは莫大な犠牲者が出るぞ。」
「他に手は無い。」
「いや、ある。」
アルマはカイの即答に二本目のタバコを取り出そうとして止めた。
「総督を説き伏せるんだ。さもなくば総督の地位から退ける。その後であんたでも他の誰かでも継げば済む話じゃないか。」
「そりゃそうだ。だけどな、そうやって消された人物が何人いると思う?もう命をはろうだなんて状況じゃないんだ。俺だってごめんだね。」
アルマは肩をすくめた。
「チャンスが来れば私がするよ。」
カイはごく小さな声で呟いた。
「は?何か言ったか?」
アルマに聞き返されながら、カイはマントを自分の体に巻きつけ、少し気だるそうに体勢を変えた。
「いや。それよりすまなかった。あんたに喋らせすぎた。」
「はは。じゃあ喋り過ぎついでに一つ教えてやるよ。俺の言った案は上手くいけばすぐに実現するぜ。カスタの暗号を掴んだんだ。明日にでもあいつらは動くぜ。」
カイは黙ってそれを聞いていた。
「お前の事は気に入ったよ。上手く事が進み始めたら釈放させてやるよ。」
アルマは出口に向かいながらカイに約束した。カイはなおも黙っていたが、やがて静かに眠りについた。